国立西洋美術館
上野公園 · JP
ル・コルビュジエ唯一の極東作品、 上野の森に立つ世界遺産の美術館
東京・上野公園に立つ国立西洋美術館は、 近代建築の巨匠ル・コルビュジエが日本に残した唯一の建築。 松方コレクションを核に西洋美術を展示する本館は、 2016年に「ル・コルビュジエの建築作品」として世界遺産に登録された。
ベストシーズン・ベストタイム
上野公園の桜が本館前庭を彩る、 1年で最も華やかな時期。 桜越しにロダン像を写せる絶好機
★★★★★
緑に包まれた前庭と冷房の効いた館内のコントラスト、 真夏の都心避暑にも最適
★★★☆☆
上野公園の紅葉と本館の緑石外壁が映え、 西美の建築美が最も穏やかに鑑賞できる季節
★★★★★
落葉した上野の森で本館の幾何学造形が際立つ、 建築鑑賞には実は冬が一番の穴場時期
★★★★☆
見どころ TOP 3
1.本館外観 — ピロティと緑石の正方形
正方形プランの本館は1階を細い円柱で持ち上げるピロティ構造、 外壁には緑色の小石を貼った独特の意匠が広がる。 ル・コルビュジエが提唱した「無限成長美術館」構想を東洋で唯一実現した記念碑的建築である。
南側広場から本館全景を斜め45度で。 ピロティと外壁石材が同時に入る
2.19世紀ホールと螺旋スロープ
本館の中心、 トップライトから自然光が降り注ぐ19世紀ホールはロダン彫刻が並ぶ吹抜けの大空間。 そこから上階へ続くなだらかな螺旋スロープは、 来館者を絵画の海へと自然に誘う建築的仕掛けである。
1階中央のロダン像越しに螺旋スロープ越しを縦構図で
3.松方コレクションとフランス絵画の名品群
実業家・松方幸次郎が20世紀初頭に収集し戦後にフランスから寄贈返還された約370点が常設の核。 モネ「睡蓮」、 ロダン「考える人」、 ルノワール「アルジェリア風のパリの女たち」など印象派から20世紀絵画まで西洋美術史を網羅する。
前庭のロダン作「考える人」「カレーの市民」と本館壁面のコラボ
物語・伝説
こんな人におすすめ
現地で知るべき豆知識
- 1.前庭のロダン「考える人」「カレーの市民」「地獄の門」は無料で見学可能で、 入館せずとも世界クラスの彫刻を鑑賞できる。 開園時間中はいつでも自由に近づけて撮影できる隠れた魅力である
- 2.毎月第2・第4土曜日は常設展が無料、 国際博物館の日(5月18日)や文化の日(11月3日)も常設展無料。 特別展は別料金だが日程を合わせれば常設の松方コレクションを無料で堪能できる
- 3.本館は世界遺産登録後も改修工事のため2020年から長期休館していたが、 2022年4月にリニューアルオープン。 ル・コルビュジエ当初設計に近い形で内部が復元され、 ピロティ部分も開放されている
訪問情報
- アクセス
- JR上野駅公園口から徒歩約1分、 東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」から徒歩約8分、 京成上野駅から徒歩約7分。 上野公園の南端、 東京文化会館の向かいに立地する。
- 所要時間
- 常設展で90分、 特別展含めて2-3時間が目安。
- 予算目安
- 常設展 大人500円・大学生250円(高校生以下無料)。 特別展は別料金で1500-2200円程度。 (2024年時点、 詳細は公式サイトで確認)
周辺観光
徒歩5分以内に東京国立博物館・国立科学博物館・東京都美術館・東京文化会館(前川國男設計)、 上野動物園が並ぶ上野公園の文化施設群。 徒歩15分で旧岩崎邸庭園、 アメ横商店街、 不忍池弁天堂も組合せ可能。
詳しく知る
時間のある方向けの詳細情報。
年表
- 1916年
松方の収集開始
川崎造船所社長・松方幸次郎が商用で訪欧した際、 西洋美術品の収集を始めたのが全ての起点となった
- 1939-1940年
コレクション分散
ロンドン分は倉庫火災で焼失、 パリ分約400点はフランス政府に敵国資産として戦時接収された
- 1951年
吉田茂の返還要請
サンフランシスコ平和条約締結時に吉田茂首相がシューマン仏外相に松方コレクション返還を要請
- 1955年
ル・コルビュジエに設計依頼
3月にコルビュジエへ設計委託、 11月に巨匠は生涯唯一の8日間来日で上野の建設地を視察した
- 1957年
実施設計開始
コルビュジエが実施設計図と説明書を提出、 弟子の前川國男・坂倉準三・吉阪隆正が実施設計を担当
- 1959年6月
本館開館
6月10日に高松宮宣仁親王夫妻と岸信介首相臨席で開館式、 13日から一般公開、 初年度58万人を動員
- 1979年
新館開館
コルビュジエの弟子・前川國男設計の新館が背後に開館、 緑釉タイル外壁で展示面積が2倍に拡大
- 1997年
企画展示館竣工
本館前庭の地下に前川建築設計事務所設計の企画展示館が竣工、 特別展はここで開催されるようになる
- 2007年
重要文化財指定
「国立西洋美術館本館」として国の重要文化財に指定、 戦後建築としては早期の文化財認定となった
- 2016年7月
世界遺産登録
ル・コルビュジエ建築作品の構成資産として7か国17資産のシリアル登録で世界文化遺産に登録
- 2020-2022年
前庭改修長期休館
コルビュジエ原設計への復元を目指す前庭改修で長期休館、 2022年4月9日にリニューアル開館
歴史をもっと深く
国立西洋美術館の歴史は、 1916年(大正5年)に川崎造船所社長・松方幸次郎が商用で訪欧した際、 西洋美術品の収集を始めたことに始まる。 松方は印象派からロダン彫刻、 タピスリーまで膨大な美術品を集め、 一部は日本国内で売却・散逸したが、 ロンドンとパリに残された約400点が「松方コレクション」の核となる。 ロンドン分は1939年のパンテクニカン社倉庫火災で焼失、 パリのロダン美術館に預けられた約400点は第二次大戦後、 敵国資産としてフランス政府に接収された。 1950年、 松方本人はコレクションの行方を知らずに他界。 1951年(昭和26年)、 サンフランシスコ平和条約締結の際、 日本側全権の吉田茂首相がフランス外相ロベール・シューマンに返還を要請、 翌1953年に文部省内に「フランス美術館設置準備協議会」が発足した。 フランス側は「フランス文化財を展示する専用美術館で保管・展示すること」「輸送費は日本側負担」「ロダン『カレーの市民』は新たに鋳造して返還」の3条件を付けて「寄贈返還」に応じた。 ゴッホ『アルルの寝室』など名品18点はフランスに残ることとなった(現オルセー美術館蔵)。 建設地は上野公園地域内に閣議決定、 寛永寺凌雲院跡が選ばれた。 設計はサールの推薦もあり1955年3月にル・コルビュジエに正式依頼、 同年11月コルビュジエは生涯唯一となる8日間の来日で建設地を視察し、 京都・奈良を訪問した後帰国した。 1956年7月に基本設計案、 1957年に実施設計図と説明書を提出、 弟子の前川國男・坂倉準三・吉阪隆正が実施設計と監理を担当した。 当初設計には講堂・図書館・劇場ホールを含む大規模構想があったが財政難で美術館本館のみ実現、 ホールは向かいの東京文化会館(前川設計、 1961年)として形を変えて実現した。 1959年(昭和34年)6月10日、 高松宮宣仁親王夫妻や岸信介首相臨席で開館式が行われ、 開館初年度58万人を集めた。 1979年に前川國男設計の新館、 1997年に企画展示館が増築された。 1998年に公共建築百選、 2003年にDOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築、 2007年(平成19年)に「国立西洋美術館本館」として国の重要文化財に指定された。 2016年7月17日、 第40回世界遺産委員会で「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」の構成資産として、 7か国17資産のシリアルノミネーション(連続性のある資産)の一つとして世界文化遺産に登録された。 2020年からはコルビュジエ原設計への復元を目指す前庭改修工事のため長期休館、 2022年4月9日にリニューアル開館した。
文化的背景と意義
国立西洋美術館は、 西洋美術全般を対象とする美術館としては日本で唯一の国立美術館であり、 中世末期・ルネサンス期以降から20世紀初頭までの西洋絵画・彫刻を体系的に展示する。 約4500点を所蔵し、 モネ『睡蓮』、 ルノワール『アルジェリア風のパリの女たち』、 ゴーガン、 セザンヌ、 マネ、 ピカソ、 ロダンの彫刻群など、 西洋オールド・マスターから20世紀絵画までを網羅する。 世界遺産登録の背景は、 ル・コルビュジエという20世紀を代表する建築家の作品が、 国境を越えて近代建築運動に与えた影響を評価するため、 フランス・ドイツ・スイス・ベルギー・アルゼンチン・インド・日本の7か国17資産を一括してシリアル登録するという、 世界遺産制度上も画期的な試みであった。 国立西洋美術館本館は、 そのうち極東で唯一の構成資産であり、 アジアにおける近代建築運動の到達点として位置づけられている。 本館は2007年の重要文化財指定によって既に国内文化財として認定され、 世界遺産登録はそれを国際的次元に押し広げた形となる。 通称「西美(せいび)」、 上野公園内では東京国立博物館・国立科学博物館・東京文化会館と並ぶ文化発信拠点である。 また館前庭のロダン彫刻群は無料で公開され、 通行人にとっても「日常の中の世界遺産」となっている。
建築的詳細
本館の建築的核心は、 ル・コルビュジエが提唱した「無限成長美術館(Musée à croissance illimitée)」構想にある。 正方形プラン(各辺約47メートル)の中央に19世紀ホール(吹抜けの中央空間)を据え、 周囲を渦巻状に展示空間が螺旋を描いて取り巻く構成で、 将来の収蔵拡大に応じて外側へ螺旋状に増築できる思想を体現する。 1階は本来全周をピロティ(高床)とし、 2階以上を細い円柱(各辺7本ずつ計28本のコンクリート円柱)が支える構造で、 2階では壁から円柱が離れて独立柱となる。 緑色の小石を全面に貼った外壁は近付くと粗石の質感を持ち、 遠目には均質な緑色のテクスチャを成す。 19世紀ホール上部のトップライト(三角錐型のスロット光)から差し込む自然光が、 中央展示空間を照らす重要な意匠である。 ホールから上階へ続く緩やかな螺旋スロープは、 来館者の動線を絵画群へと誘導する建築装置として機能し、 ル・コルビュジエの「建築的散歩道(プロムナード・アーキテクチュラル)」の理念を具現化する。 延床面積は本館1万7369平方メートル、 施工は清水建設。 1979年増築の新館は前川國男設計で緑釉タイル外壁、 1997年の企画展示館は前川建築設計事務所による地下構造である。