アルカサル
セビリア · ES
1000年の王宮、 ムデハル様式が極まる現役最古のスペイン王室住居
セビリアの旧市街に立つアルカサル(Reales Alcázares)は、 10世紀のウマイヤ朝要塞を起源に14世紀ペドロ1世がムデハル様式で再建したスペイン王室の宮殿。 1987年に隣接する大聖堂とインディアス古文書館と共にユネスコ世界遺産に登録され、 今も国王公式行事に使われる「現役最古」の王宮として知られる。
ベストシーズン・ベストタイム
セビリア聖週間・春祭りと重なる華やかな季節、 オレンジの花の香りが庭園に満ちる絶頂期
★★★★★
猛暑が引き穏やかな気候、 入場待ち行列も春より短く撮影と散策に最適な好機
★★★★☆
セビリアは40度を超える酷暑、 早朝9時の開場直後か夜間ライトアップツアーに限る
★★☆☆☆
観光客が最も少なく庭園を独占体験できる穴場、 セビリア冬は15度前後で過ごしやすい
★★★★☆
見どころ TOP 3
1.ペドロ1世宮殿のムデハル・ファサード
1364年完成のファサードは、 グラナダのナスル朝職人とトレドのキリスト教徒石工が共作した世界的にも稀有なムデハル建築の最高傑作。 アラビア書道のクーフィー体と中世スペイン語の銘文が同居し、 イスラム×キリスト教の文化融合を象徴する。
正午の順光でファサード全体、 中庭広場の北側から正対構図がおすすめ
2.乙女の中庭(Patio de las Doncellas)
ペドロ1世宮殿の中心に位置する双柱アーケード回廊と、 中央に細長い水盤を配したムデハル中庭の最高峰。 大理石の双子円柱52本と上層階の鏡像構成で、 イベリア半島のイスラム式パティオ建築の白眉と評される。
朝10時前の斜光でアーケードの陰影と水盤反射を一枚に
3.ムデハル庭園と6万平米の楽園
敷地の半分を占める広大な庭園群はアラブ式・ルネサンス式・英国式が併存する歴史庭園の博物館。 オレンジ・檸檬・ヤシ・糸杉が茂り、 孔雀が放し飼いされ、 マリア・ルイサ風呂やカルロス5世亭が点在する。
晴れた午後3-4時、 メルクリオ亭から庭園全景を俯瞰で
物語・伝説
こんな人におすすめ
現地で知るべき豆知識
- 1.公式サイトでの事前予約が混雑期(春~初夏)では必須となり、 当日券は午前中で売切れることも多いため、 出発前にカード決済済の時間指定券を確保しておくのが安心である
- 2.上階(Cuarto Real Alto)は別料金の予約制ガイドツアーのみ入場可で、 王室現役居室の本物を体感したい歴史マニアには訪問前のオンライン予約が必須となるので注意
- 3.「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン5-7のドーン王宮(マルテル家)ロケ地は乙女の中庭・少女の中庭・ラ・モンテリア中庭、 ファン巡礼は撮影アングル一覧を事前確認のこと
訪問情報
- アクセス
- セビリア・サンタフスタ駅から市バスC5またはタクシーで約10分。 セビリア空港から市内バスEA線で35分、 大聖堂南隣徒歩30秒の好立地。
- 所要時間
- 主要宮殿と庭園で2時間、 上階ガイドツアー含めて半日が目安。
- 予算目安
- 一般入場料 €14.50、 上階ガイドツアー追加 €5.50、 26歳以下学生 €7。 (2024年時点参考、 最新は公式サイトで確認)
周辺観光
徒歩30秒の北側にセビリア大聖堂(世界最大のゴシック大聖堂、 同一世界遺産)とヒラルダの塔。 徒歩2分のインディアス古文書館も同登録区分。 徒歩10分のサンタクルス地区はユダヤ人街跡で散策の名所、 徒歩15分のスペイン広場は1929年博覧会の遺構として人気。
詳しく知る
時間のある方向けの詳細情報。
年表
- 913-914年
イスラム要塞創建
後ウマイヤ朝アブド・アッラフマーン3世が西ゴート期の教会跡に方形要塞を建設、 アルカサルの起源となる
- 1163年
アルモハード王宮化
ムワッヒド朝カリフ・アブー・ヤアクーブがアル・アンダルス首都セビリアの主居館として大幅拡張
- 1248年
レコンキスタ完了
カスティーリャ王フェルナンド3世がセビリアを奪還、 アルカサルはキリスト教徒の王宮となる
- 1258年
アルフォンソ10世のゴシック宮殿
賢王アルフォンソ10世が現クルセロ中庭の場所にゴシック様式の宮殿を建設、 一部現存
- 1364-1366年
ペドロ1世のムデハル宮殿
残酷王ペドロ1世がグラナダ・ナスル朝の職人を招きムデハル様式の宮殿を建設、 アルカサルの代表的姿に
- 1492年
コロンブス第二回航海承認
カトリック両王がアルカサルでコロンブスの第二回新大陸航海計画を承認、 大航海時代の中枢に
- 1503年
通商院設置
新大陸交易を統括する通商院(Casa de Contratación)がアルカサル敷地内に設置される
- 1526年
カール5世結婚式
神聖ローマ皇帝カール5世がポルトガル王女イザベルとの結婚式を大使の間で挙行
- 1755年
リスボン大地震被害
リスボン大地震の余波でセビリアにも被害、 アルカサルの一部塔と壁面が崩落
- 1929年
イベロアメリカ博覧会改修
セビリアの国際博覧会開催に向け庭園と建物が大規模に改修、 現在見学できる姿となる
- 1987年12月
世界遺産登録
セビリア大聖堂・インディアス古文書館とともにユネスコ世界文化遺産に登録
- 2014-2017年
ゲーム・オブ・スローンズ撮影
米HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』ドーン王宮として撮影、 世界的観光人気が加速
歴史をもっと深く
アルカサルの起源は913-914年、 後ウマイヤ朝の初代カリフ・アブド・アッラフマーン3世がセビリアの反乱鎮圧後、 西ゴート時代のキリスト教バシリカ跡に方形要塞を築いたことに遡る。 11世紀タイファ期にはアッバード朝のアル・ムータミドが南東方向に「アル・ムバラク(祝福されし)宮殿」を増築し、 1150年頃から始まったムワッヒド朝(アルモハード)期にはセビリアがアル・アンダルスの首都となり、 1163年にカリフ・アブー・ヤアクーブ・ユースフがアルカサルを主居館とした。 建築家アフマド・ベン・バソとアリー・アル・グマーリーの設計で12の宮殿が並ぶ大複合体に拡張され、 北側には現セビリア大聖堂となる大モスクが1171-1198年に建設された。 1248年、 カスティーリャ王フェルナンド3世がセビリアをレコンキスタで奪還し、 アルカサルはキリスト教徒の王宮となる。 1258年にアルフォンソ10世がゴシック様式の宮殿を増築(現クルセロ中庭の場所)、 14世紀半ばにアルフォンソ11世が裁きの間を建設した。 1364年、 ペドロ1世(残酷王)がグラナダのナスル朝ムハンマド5世から職人団を借受け、 自身の宮殿(現ペドロ1世宮殿)をムデハル様式で建設、 1366年に完成した。 1492年、 カトリック両王(イサベルとフェルナンド)がコロンブスの第二回新大陸航海をアルカサルで承認し、 1503年には新大陸交易を統括する通商院がアルカサル敷地内に設置された(現契約の家)。 1526年、 神聖ローマ皇帝カール5世が大使の間でポルトガル王女イザベルとの結婚式を挙げ、 イタリア人芸術家ベルッツィの設計による上階の改修を進めた。 1755年のリスボン大地震ではセビリアにも被害が及び、 一部の塔と壁面が崩落した。 1812年のスペイン独立戦争ではナポレオン軍が一時駐屯し略奪に遭うが、 王政復古後に補修された。 1929年のイベロアメリカ博覧会に向けて庭園と一部建物が大規模に改修され、 現在見学できる姿となった。 1987年12月、 セビリア大聖堂・インディアス古文書館とともにユネスコ世界文化遺産に登録された。 2014年からは米国HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン5-7のドーン王宮として撮影が行われ、 世界的な観光人気がさらに加速した。
文化的背景と意義
アルカサルは欧州で「現役最古」の王宮として知られ、 1248年以来800年以上にわたりスペイン王室の南部公邸として機能し続けている希少な存在である。 上階のクアルト・レアル・アルトは現在も国王フェリペ6世がセビリア滞在時に使用する王室公邸で、 世襲王朝の連続性を体現する。 建築様式の核心はムデハル様式(キリスト教国の領内でイスラム職人が手掛けたスペイン独自の混合様式)であり、 グラナダのアルハンブラ宮殿と並ぶイベリア半島のムデハル建築の双璧と評される。 ペドロ1世がイスラム職人を起用した1364年の協業は、 レコンキスタ最終局面においてキリスト教徒とイスラム教徒が共存し得た文化的寛容の象徴的事例として、 美術史・文化史で繰り返し論じられる。 1987年の世界遺産登録(セビリア大聖堂・インディアス古文書館と一括)では、 大航海時代のスペイン世界帝国の中枢機能として登録基準(ii)(iii)(vi)が適用された。 2014年以降は米国HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』のドーン地方マルテル家のロケ地として知名度が急上昇し、 セビリア観光の最大集客地となっている。
建築的詳細
アルカサルの平面はほぼ方形で、 一辺約170メートルの城壁内に複数の宮殿群と庭園が点在する複合構成である。 中核のペドロ1世宮殿は二層構造で、 玄関を入った先のラ・モンテリア中庭から内部に進むと、 双柱アーケードと中央水盤を持つ乙女の中庭(Patio de las Doncellas)に至る。 双柱は52本のジェノヴァ産白大理石で、 柱頭にはカリフ様式のアカンサス模様が刻まれる。 中庭東側には王宮の中枢「大使の間(Salón de Embajadores)」が位置し、 8角形を基調とする金色のクーポラ天井(メディアナランハ)が掲げる100以上の星形装飾で天球を表現する。 壁面はアズレージョ(色釉タイル)のダドと石灰岩のアタウリケ(漆喰彫刻)の2層構成で、 クーフィー体アラビア書道とゴシック様式の盾紋章が同居する。 庭園部は約6万平方メートルでムデハル式・ルネサンス式・英国式が時代別に積層し、 メルクリオの池(Estanque de Mercurio)、 カルロス5世亭、 メノレリオ池、 マリア・パディーリャの浴場(地下空間)などが配置される。 城壁外周には1067年建造の「黄金の塔」と接続する旧通路が部分的に残る。