メンフィスとその墓地遺跡
ギーザ県 · EG
ピラミッド発祥の地、 古王国の都メンフィスとサッカラからダハシュールへ続く30km墓地遺跡群
ナイル西岸に南北30kmにわたって広がる古代エジプトの王都メンフィスと墓地遺跡群。 第3王朝ジョセル王の階段ピラミッド (現存最古の石造巨大建築) からスネフェル王の屈折・赤ピラミッド、 ギザ三大ピラミッドまでピラミッド進化史を一望でき、 1979年ユネスコ世界文化遺産に登録された。
ベストシーズン・ベストタイム
気温20度前後で砂漠歩行に最適、 ハイシーズンで観光客最多、 早朝開門時推奨
★★★★★
気温25度で快適、 4月のハムシン (砂塵嵐) の日は視界不良で撮影困難
★★★★☆
夏の終わりで快適化、 観光客戻る前で予約取り易く、 写真愛好家には穴場
★★★★☆
気温40度超で日中危険、 早朝開門時のみ現実的、 水分補給必須
★★☆☆☆
見どころ TOP 3
1.ジョセル王の階段ピラミッド (サッカラ)
紀元前2650年頃、 第3王朝ジョセル王のため宰相イムホテプが設計した史上初の石造ピラミッド。 6段マスタバ積層・高さ62mの階段状で、 全ピラミッドの祖型となった建築革命の起点。 2020年に地下回廊が公開された。
西側参道から南斜光で6段全形を捉える、 朝10時前推奨
2.メンフィスのラムセス2世横臥巨像
古王国の都メンフィス遺跡 (現ミット・ラヒーナ村) には全長10.3mのラムセス2世巨像が横たわる屋内展示館があり、 1820年発見時に下肢が失われたため現在の姿に。 アラバスター製スフィンクスと共に古都の記憶を伝える野外博物館。
2階回廊から見下ろし顔のディテールと胸飾りを捉える
3.ダハシュールの赤ピラミッド (世界初の真正ピラミッド)
第4王朝スネフェル王が紀元前2580年頃に築いた高さ104mの世界初の真正ピラミッド。 赤褐色の花崗岩外皮から「赤」の名が付き、 ギザ三大ピラミッドの直接の原型。 観光客が少なく、 内部玄室まで自由に入れる穴場。
東側参道入口から逆光で台形シルエットを撮る、 午後3時以降
物語・伝説
こんな人におすすめ
現地で知るべき豆知識
- 1.サッカラ階段ピラミッドの地下回廊は2020年から一般公開された穴場体験。 別途100エジプトポンド (約350円) の追加チケットで墓室まで降りられ、 現存最古ピラミッド内部を歩ける貴重な機会である。
- 2.メンフィス野外博物館はギザ日帰りツアーに含まれない場合が多く、 ドライバーへ明示的に追加依頼するのが推奨。 ラムセス2世巨像とアラバスター製スフィンクスがあり、 20-30分滞在で見応え十分。
- 3.ダハシュール赤ピラミッドは入場無料で内部玄室まで自由に入れる希少な大ピラミッド。 急な下り階段と硫黄臭で閉所恐怖症の人は要注意で、 隣接する屈折ピラミッドも徒歩で巡れる穴場である。
訪問情報
- アクセス
- カイロ中心部からタクシーまたは現地ツアーで、 ギザ約45分・サッカラ約1時間・メンフィス約1時間15分・ダハシュール約1時間30分。 一日で全エリア回るならドライバー付き貸切車が現実的。
- 所要時間
- 全エリア巡る場合終日 (8-10時間)。 サッカラ+メンフィス半日も人気。
- 予算目安
- サッカラ入場450ポンド・ダハシュール100ポンド・メンフィス80ポンド (約2,300円)。 貸切車1日100-150米ドル目安。 食事+水で1日合計1万円程度。
周辺観光
ギザ三大ピラミッド (Q12508、 大ピラミッド Q37200、 大スフィンクス Q130958) はサッカラから車30分。 カイロ中心部のエジプト考古学博物館 (タハリール広場、 ツタンカーメン財宝展示) とギザ近郊の大エジプト博物館 (GEM) は必訪。
詳しく知る
時間のある方向けの詳細情報。
年表
- 紀元前3100年頃
メンフィス建都
上下エジプト統一王メネス (ナルメル王) が上下エジプトの境界に首都メンフィスを建設、 以後3000年にわたり古代エジプトの政治・宗教の中心となる。
- 紀元前2650年頃
階段ピラミッド完成
第3王朝ジョセル王のために宰相イムホテプがサッカラに高さ62mの史上初の石造ピラミッドを設計・完成、 全ピラミッドの祖型となる建築革命の起点。
- 紀元前2580年頃
スネフェル王の真正ピラミッド完成
第4王朝スネフェル王がダハシュールで屈折ピラミッドと赤ピラミッドを築造、 後者で世界初の真正ピラミッドを実現しギザ三大ピラミッドの原型を作る。
- 紀元前2560年頃
ギザ大ピラミッド完成
スネフェル王の子クフ王がギザに高さ146.6mの大ピラミッドを築造、 3000年以上にわたり世界最高の建造物となる。
- 紀元前2181年頃
古王国終焉
第6王朝の崩壊により古王国時代が終わり、 大規模ピラミッド建設の時代が幕を閉じる。 第1中間期の混乱に入る。
- 紀元前1550年頃
新王国時代開始
新王国時代の到来で首都はテーベ (現ルクソール) に移るが、 メンフィスはプタハ神を中心とする宗教都市として繁栄を続ける。
- 紀元前1250年頃
ラムセス2世巨像群建造
第19王朝ラムセス2世がメンフィスに高さ10.3mの巨像を含む多数の自像を建造、 古都の威信を取り戻そうとした。
- 紀元前30年
ローマ帝国併合
クレオパトラ7世死去によりプトレマイオス朝が滅亡、 メンフィスはローマ帝国エジプト属州の地方都市として存続する。
- 641年
アラブ侵攻とフスタート建設
アラブ軍のエジプト征服後、 メンフィス対岸にフスタート (後のカイロ) が建設され始め、 メンフィスの石材が新都市の建材として転用される。
- 1798年
ナポレオン遠征
ナポレオンのエジプト遠征軍に同行した学者団がピラミッドの大規模調査を実施、 1809-1828年刊『エジプト誌』で西欧近代エジプト学が始まる。
- 1820年
ラムセス2世巨像発見
イタリア人探検家ジョバンニ・カビリアがメンフィスでラムセス2世の横臥巨像を発見、 当時失われていた下肢のため横臥展示となる。
- 1979年
世界文化遺産登録
「メンフィスとその墓地遺跡 - ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯」としてユネスコ世界文化遺産 (基準i, iii, vi) に登録される。
- 2020年
ジョセル王地下回廊公開
サッカラ階段ピラミッドの15年に及ぶ修復が完了し地下回廊と墓室の一般公開が開始、 現存最古のピラミッド内部体験が可能となる。
- 2023年
大エジプト博物館部分開館
ギザ近郊にエジプト最大級の大エジプト博物館が部分開館し、 メンフィス・サッカラ出土の重要遺物が新展示空間で公開される。
歴史をもっと深く
メンフィスの起源は紀元前3100年頃、 上下エジプト統一王メネス (ナルメル王と同一視) が上下エジプトの境界に位置するこの地に首都を建設した時に遡る。 ナイルデルタの頂点という戦略的要衝のため、 古王国期 (第3-6王朝、 紀元前2686-2181年) を通じてエジプト統一王朝の首都であり続け、 第1中間期の混乱を経て中王国期 (紀元前2055-1650年) にも重要都市として機能した。 ナイル西岸の墓地遺跡群は王朝順に北上して展開し、 最古はアブ・ロアシュの第4王朝ジェドエフラー王のピラミッド (現在は基礎のみ)、 続いてギザの三大ピラミッド (クフ・カフラー・メンカウラー王)、 アブシールの第5王朝群、 サッカラの第3王朝ジョセル王階段ピラミッドから第6王朝までのピラミッド群、 最南のダハシュールに第4王朝スネフェル王の屈折・赤ピラミッドと中王国第12王朝のアメンエムハト3世らのピラミッドが点在する。 紀元前2650年頃、 第3王朝ジョセル王が宰相イムホテプに依頼した階段ピラミッドは、 それまでの日干しレンガ製マスタバから石造へ素材革命を起こした世界最古の巨大石造建築であり、 全てのピラミッドの原型となった。 第4王朝スネフェル王はダハシュールで屈折ピラミッド (途中で傾斜角を変えた) と赤ピラミッド (世界初の真正ピラミッド) を築き、 息子クフ王がギザで高さ146.6mの大ピラミッドへ到達。 第5・第6王朝期にはピラミッド規模は縮小したが装飾と内部のピラミッド・テキストが発達した。 新王国期 (紀元前1550-1069年) に首都はテーベへ移ったが、 メンフィスはプタハ神を中心とする宗教都市として栄え、 ラムセス2世の巨像群も建造された。 紀元前30年のローマ帝国エジプト併合後も大都市として機能したが、 7世紀のアラブ侵攻以降カイロ建設の石材として解体され、 現在は遺跡となった。 1850年代以降フランス・イギリスの考古学チームが本格発掘を開始、 1979年にユネスコ世界文化遺産 (基準i, iii, vi) として「メンフィスとその墓地遺跡 - ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯」名で登録された。
文化的背景と意義
メンフィスとその墓地遺跡は古代エジプト文明そのものの象徴であり、 ピラミッド建築の発祥から完成までの進化史を一箇所で辿れる世界唯一の遺跡群である。 1979年ユネスコ世界文化遺産登録 (基準i「人類の創造的才能の傑作」、 基準iii「現存または消滅した文化的伝統・文明の稀な証拠」、 基準vi「顕著で普遍的な意義を持つ出来事・伝統・信仰と直接関連」) は、 単独の建造物ではなく南北30kmに及ぶピラミッド進化の連続体としての価値を評価したもの。 サッカラ階段ピラミッドの設計者イムホテプは古代エジプト後期に「医学・建築の神」として神格化され、 ギリシア神話のアスクレピオス神と同一視されるほど信仰された。 メンフィスの主神プタハは「創造神・職人の守護神」として古代エジプト全体で崇拝され、 ラムセス2世はじめ歴代の王が巨像と神殿を奉納した。 観光面ではギザ三大ピラミッドが圧倒的知名度を持つ一方、 サッカラ・ダハシュール・メンフィスは「ギザの陰」として穴場扱いされ、 訪問者がギザの数分の一であることが逆に上級観光客の魅力となっている。 映像作品では1956年「十戒」、 1999年「ハムナプトラ」、 2017年「ナショナル ジオグラフィック・ピラミッド」シリーズなどで度々取り上げられた。
建築的詳細
ピラミッド進化の連続体としての建築的価値が突出する。 サッカラのジョセル王階段ピラミッド (紀元前2650年頃) は、 それまでの日干しレンガ・マスタバ (台形墓) を6段積層した高さ62m × 一辺121mの世界最古の石造巨大建築であり、 周囲を10mの石壁で囲んだ広大なピラミッド複合体を持つ。 設計者イムホテプは石材を小型化することで運搬・施工を簡略化し、 全体に化粧石で覆う仕上げを発明した。 ダハシュールのスネフェル王屈折ピラミッド (高さ105m) は途中で54度から43度へ傾斜角を変えた特異な形状で、 構造的不安定性を回避するための設計変更と考えられる。 同じスネフェル王の赤ピラミッド (高さ104m) は最初から43度の緩やかな勾配で築かれた世界初の真正ピラミッドであり、 ギザ三大ピラミッドの直接の原型となった。 メンフィス遺跡では花崗岩・アラバスター・石灰岩を用いたラムセス2世巨像 (全長10.3m)、 プタハ神殿の柱基、 アラバスター製スフィンクスが現存し、 古王国から新王国期までの石彫技術の連続性を示す。 アブシールの第5王朝ピラミッド群は規模を縮小しつつ太陽神殿との複合体構成を導入、 サッカラ第5・第6王朝ピラミッドは内壁にピラミッド・テキスト (現存最古の宗教文書) を刻んだ点で建築から思想表現への転換を示す。